CマウントとFマウントの間を埋めるTFLマウント
目次
解像度を高める方法は3つあります。センサーサイズを大きくする、画素サイズを小さくする、またはその両方です。小画素は一般に大画素よりSNR(信号対雑音比)が低下し、大型センサーはコストが上がります。傾向としては、画素の微細化が進む一方でセンサーサイズも拡大しています。現在のマシンビジョンでは、Cマウントが物理的に許容できる上限に近づいています。Cマウントは25.4 mmのねじ規格と17.526 mmのフランジバック(フランジ焦点距離)を定義するカメラ標準です。

上図:画素数の増加と画素サイズの微細化により、センサーは大型化しつつ解像度も向上しています。
Cマウントの限界
下の図1に示すとおり、Cマウント筐体で光学素子が確保できる最大径は開口25.4 mmにもかかわらず約17 mmです。主レンズバレル、フォーカス用内筒、保持具などの機構が必要なため、実効開口が段階的に小さくなるからです。光学径が小さくなるほど出射光の角度は大きくなります。センサーが小さい間は問題になりにくいものの、センサーが大きくなるとCマウント内での整合が難しくなります。この角度(図2のθ)が増すと、cos4(θ)則により周辺光量が低下し、画像の隅が暗くなります。さらに、画素のマイクロレンズ最適化によっても相対照度は変化します。こうした理由から、光学設計では角度を最小化することが重要です。総合的に見ると、Cマウントで最良の性能が得られる実用上の上限は1.1型(対角17.6 mm)程度です。

図1(左):Cマウント対応1.1型・高解像度・焦点距離12 mmレンズ背面の断面図。機構部の制約により最後端レンズの最大径はCマウント開口25.4 mmより小さくなります。大きなセンサーでは光線角が急峻になり、明るさに影響します(右上グラフ)。(赤:1.1型センサー隅の光線、茶:1型、青:センサー中心)
図2(右):主光線角と撮像素子上の相対照度の関係。角度が大きいほど周辺で暗くなります。大型センサーのCマウント化はこの問題を助長します。
Sonyの第3世代Pregiusでは、APS-Cフォーマット(対角27.9 mm)で31.4 MPのIMX342が登場しました。これはCマウントには大きすぎます。一方で次の選択肢であるFマウント(M42)は、いくつかの光学的課題があります。M42は論理的な候補ですが、フランジやねじピッチが統一されておらず、業界標準としては不十分です。TFLはAPS-Cサイズに最適なマウントで、JIIA(日本インダストリアルイメージング協会)のレンズワーキンググループにより規格化されています。TFLマウントはM35×0.75で、フランジバックは17.526 mm。Cマウントと同一のため、より大径のCマウントと捉えることができます。

TFLマウントとFマウントの比較
APS-Cサイズにおいて、TFLはFマウントに比べてコスト、フランジバック、固定方式で優位です。Fマウントは43.3 mm対角までの大型センサーを想定するためレンズが大型化し、レンズ要素のコストは半径の二乗に概ね比例して増加します。要素数が多いほど総コストはさらに上がります。
図4:TFLマウントはAPS-Cセンサーの周囲に十分な機構スペースを確保でき、急峻な光線角による問題を低減します。
フランジバックの重要性
TFLのもう一つの利点はフランジバックです。TFLはCマウントと同じ17.526 mmで、より大径のCマウントと考えられます。Fマウントは46.5 mmと長く、採用できる光学形式が制限されます。特に短焦点レンズはバックフォーカス(BFL、最終レンズ面から像面までの距離)が短くなる傾向があり、長いフランジバックと両立させるためにレトロフォーカス設計を強いられ、解像力面でトレードオフが生じます。後群の張り出し(リアプロトルージョン)を大きくして克服する方法もありますが、カメラ内部に収めるため後玉径を絞る必要が生じ、前述のcos4(θ)による周辺光量低下を招きやすくなります。短いフランジバックを持つTFLは、システム全長を短くでき、レンズの解像力を最大化するための設計自由度も確保できます。
この短いフランジバックに加え、TFLレンズはより小さなセンサー向けに設計されるため、視野依存の収差の影響も小さくなります。結果として、TFLマウント用レンズは小型で高性能、かつコスト効率に優れた選択になります。

上図:Cマウント、TFLマウント、Fマウントのフランジバック差とカメラサイズへの影響の比較。
ねじ込み式とバヨネット式
Fマウントはねじ込みではなくバヨネット式です。写真用途では素早いレンズ交換や電子制御(アイリス・フォーカス)の統合が容易で便利です。しかし多くのマシンビジョン用途ではレンズの交換は稀で、時間もシビアではありません。アイリス制御は限定的で、多数回の駆動が必要な工場環境では可動部の摩耗リスクもあります。
バヨネット式の大きな弱点は接合そのものに起因します。センサーが大型化し画素が微細化するほど、光軸に対する撮像面の許容チルトは小さくなります。図5が示すように、わずかな傾きでも大型センサーでは像面のボケを招きます。高解像度では低F値が求められるため、厳密な公差管理が不可欠です。バヨネット式は許容チルトが大きく、カメラとレンズを最適に固定しにくい傾向があります。Nikon Fマウントの許容差は公表値が限定的で、設計側が前提を揃えにくい点も課題です。対してねじ込み式フランジは一体加工で高い平面度を確保でき、クランプ力も大きく、振動や重力下でも撓みやガタが抑えられます。TFLは公開規格でねじ込み式のため、カメラとレンズの両メーカーが前提を共有し、最適な組み合わせ設計が可能です。

図5:センサーが大型化し画素が小さくなるほど、厳密な公差管理が必須になります。バヨネット接続はTFLのねじ込み接続に比べ、カメラとの結合が緩くなり、ピント低下につながる恐れがあります。
TFLマウント+アクティブセンサーアライメント
高性能なTFLレンズとTFLマウントを活かすには、センサーをレンズバレルに対して高精度に整列させる必要があります。アクティブセンサーアライメントにより、センサーの中心位置、回転、チルト、バックフォーカスを測定し、視覚計測のフィードバックに基づいて実装時に位置を能動補正します。大型かつ小画素のセンサーでは数µmのチルトでも像面が外れやすく、重要性が増します。自動6自由度(6DoF)機構と検査ユニットでセンサー面に重ねたパターンをリアルタイム解析し、最大シャープネスとなる均一な像面を確保した状態で固定します。AtlasおよびTritonに採用しているLUCIDのアクティブセンサーアライメント技術の詳細は、技術解説をご覧ください。

上図:LUCIDのアクティブセンサーアライメントにより、センサーは中心出し・無傾き・無回転で最適位置に固定され、レンズからセンサーまでの光路が最適化されます。

上図:カメラ内部の各要素がもたらすばらつきを誇張して示したアニメーション。正確なセンサー実装が難しくなる要因を可視化しています。
マシンビジョン向けTFLマウント
TFLマウントレンズは小型・軽量・低コストで、産業環境での長期運用を前提に設計されています。1.1型を超えAPS-Cまでのセンサーに最適です。市場での採用は拡大中で、日常的に使われる光学とカメラに新しい選択肢を提供します。センサーとレンズの進化は続いており、Sonyの第4世代Pregius S 24.5 MP IMX530(4/3型、対角19.3 mm、2.74 µm画素)がその一例です。こうしたセンサーには、高品質なTFLレンズとアクティブセンサーアライメントを備えたTFLマウントカメラ、例えばLUCIDの高解像度ファミリーAtlasが最適です。
詳細は、以下のTFLマウント製品をご覧ください。
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Atlas 16.8 MP カメラモデル
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Atlas 19.6 MP カメラモデル
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Atlas 31.4 MP カメラモデル
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Atlas10 45 MP カメラモデル (onsemi XGS 45000)
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Atlas10 47 MP カメラモデル (IMX492)
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Atlas10 65 MP カメラモデル
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Edmund Optics TFLマウント APS-C 100mm f/2.8 レンズ
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Edmund Optics TFLマウント APS-C 50mm f/1.8 レンズ
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Edmund Optics TFLマウント APS-C 75mm f/2.8 レンズ
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