偏光:光の特性
アプリケーションエンジニアは、偏光カメラを用いて不要な反射やグレアを除去したり、偏光角度をカラー表示することでコントラストを強調したりできます。製品に使用されるさまざまな材料は、入射光を反射し、その特性を変化させます。通常のカラー/モノクロセンサーは、入射光の強度と波長を検出しますが、偏光カメラに搭載されている特殊な偏光センサーは、反射・屈折・散乱した光から偏光方向を検出・フィルタリングすることができます。LUCIDのPhoenixおよびTriton偏光カメラは、ソニーの偏光技術「Polarsens™」を採用しています。本稿では、これらのカメラのメリットを理解するために、まず偏光とは何かについて説明します。
Good Vibrations:非偏光から偏光へ
偏光は光の基本的な特性であり、光の電場がどの方向に振動しているかを表します。太陽など多くの光源は、非偏光光を放射します。非偏光光では、進行方向に対して垂直なさまざまな方向に電場がランダムに振動しています。光を偏光させるには、ランダムな振動成分を取り除くか、直線偏光、円偏光、楕円偏光などの電磁波に変換する必要があります。本稿の例では、非偏光光がどのように直線偏光されるかに絞って説明します。
サイドノート
偏光板面に対して垂直な偏光角を持つ入射光はブロックされますが、その他の偏光角の光は、強度の低い偏光成分へと変換されます。下の例では、斜め方向の光は完全に遮断されるのではなく、強度の低い直線偏光に変換されています。

偏光板による偏光
この光が直線偏光板、例えば下の例にある垂直偏光板や水平偏光板に入射すると、斜め方向の振動成分はフィルタリングされ、垂直または水平方向の振動だけが透過します。振動方向が単一の平面に制限された光を直線偏光と呼びます。偏光板にはいくつかの種類があり、代表的なものとして結晶型、二色性型、フィルム型、ワイヤーグリッド型などがあります。

上図:垂直偏光板と水平偏光板の例 注:上図のフィルム偏光板の線状パターンは、実際のワイヤーグリッドではなく、その偏光方向を示しています。
反射による偏光
非偏光光は、非金属面での表面反射によって偏光される場合があります。金属面は、入射光が偏光光であっても非偏光光であっても、その偏光状態をほとんど変えずに反射し、新たに偏光を生じることはあまりありません。一方、ガラスやプラスチック、水のような半透明体は、入射光の一部を反射・偏光させて周囲に戻します。この反射光は、観察者やカメラの位置によっては望ましくないグレアの原因となります。しかし、この反射光は入射面に対して垂直な方向に偏光されているため、入射面と平行に整列させた偏光板を用いることで除去することができます。
屈折による偏光
光がある媒質から別の媒質へと進む際、つまり屈折が起こる際にも、非偏光光の一部が偏光されることがあります。屈折によってどの程度の光が偏光されるかは、反射光と屈折光のなす角(90°になるブリュースター角に近いかどうか)によって決まります。ガラス、プラスチック、水などの透明材料は、屈折した光を入射面に沿った方向に部分的に偏光させることがあります。

上図:反射によって非偏光光が偏光される様子
サイドノート
非偏光光(a)のビームが表面に入射し、反射光(b)と屈折光(c)のなす角が90°になるような条件では、反射光は直線偏光になります。一方、屈折光は部分的に偏光されます。反射光と屈折光が互いに直交するような入射角をブリュースター角と呼びます。

偏光を活用する
偏光の応用は、長年にわたりマシンビジョン検査に利用されており、応力検出、対象物の検査、透明体からのグレア低減などに使われてきました。従来は、対象物、光源、カメラの間に1枚または複数の外付け偏光板を配置する構成が一般的でした。さまざまな構成により、材料の応力測定、コントラスト向上、凹みや傷といった表面品質の解析が可能です。

応力検査
偏光光が透明材料を通過すると、材料内部の応力分布によって偏光方向が場所ごとに変化します。特定の偏光角度に色を割り当てることで、欠陥や応力の集中箇所を可視化できます。上図の例では、透明アクリルブロックの応力分布をカラー表示しています。

反射の低減
対象物の反射により、表面検査が困難になる場合があります。食品検査などでは、偏光板を用いて反射やグレアを低減することで有効な画像が得られます。上図では、唐辛子から反射した偏光光を除去しています。

コントラストの改善
低照度環境では、対象物からの偏光角度を検出することでコントラストを改善できます。上の例は、低照度下で通常撮像と比較した際のコントラスト改善効果を示しています。

傷検査
応力検査と同様に、従来のイメージングでは特定の欠陥や傷を識別することが難しい場合があります。透明材料の表面欠陥を特定するために、偏光イメージングを使用して傷を検出することができます。

物体検出
シーンによっては、対象物と背景の区別が難しい場合があります。偏光イメージングを利用すると、対象物からの反射光が特有の偏光角度を持つことを利用して、対象物の位置を検出することができます。
既存の偏光ソリューション
3 台のカメラ
スイッチ
トリガーソース
ホスト PC
• 視差歪みが発生
• 高コスト
• 開発工数が多い
• 保守工数が多い
3 枚の偏光板
1 台のカメラ
• 高速なフリップ動作が必要
• 偏光板切り替え時に時間遅延が発生
Sony IMX250MZR 偏光センサー搭載
• 完全な直線偏光データを取得可能
• システム全体のコスト削減
• 開発工数が少ない
ソニー初の偏光センサー:その仕組み
ソニーは、偏光技術「Polarsens™」を採用した初の偏光センサーにより、可視イメージングを超えてセンサー技術のリーダーシップをさらに拡大しました。このセンサーは、5.0 MP Pregius IMX250 CMOSセンサーをベースとしており、フォトダイオードの上部に偏光板層を追加しています。偏光板アレイ層はオンチップで配置されており、空気層付きのナノワイヤーグリッド構造と反射防止膜によりフレアやゴーストを抑制します。このオンチップ配置により、偏光のクロストークが低減され、消光比が向上します。
偏光板アレイは、90°、45°、135°、0°の4方向の偏光板で構成され、それぞれが1画素ずつに配置されています。4画素で1つの計算ユニットを構成します。この革新的な4画素ブロック構造における各偏光方向の関係性により、偏光の強度だけでなく方向も算出することができます。
サイドノート
ワイヤーグリッド偏光板は、ワイヤーグリッドの線に対して垂直な方向に光を偏光します。グリッド線と平行な偏光成分はワイヤーによって反射・吸収され、垂直な偏光成分のみが透過します。


上図:ソニー Polarsens 4画素ブロック偏光構造
ソニーのIMX250MZRでは、4画素ブロック(計算ユニット)により、90°、45°、135°、0°だけでなく、あらゆる直線偏光角度を検出できます。これは、4画素ブロック内の各画素で透過する光強度(増減)を比較することで実現されています。

上図:90°、45°、135°、0°の各画素は、それぞれのワイヤーグリッド軸に対して回転する偏光光(赤線)を測定しています。パーセント値は光透過率の増減(100%が最大透過)を表します。各画素同士を比較することで、センサーはあらゆる直線偏光角度を検出できます。
偏光板アレイはオンチップに配置されており、オンガラスではありません。偏光板アレイをオンチップでマイクロレンズの下側に配置することで、ソニーの偏光センサーは、誤った画素で偏光角度を検出してしまうクロストークを低減しています。

上図:0°偏光光が、本来90°を検出する画素に入り込み、90°として誤検出されている例です。偏光アレイがマイクロレンズの上に配置されていると、このようなクロストークが発生します。

上図:ソニーの偏光センサーでは、偏光アレイをオンチップに配置することでクロストークの発生を抑えています。0°偏光光は、90°のみを検出する画素に入り込めません。
消光比(Extinction Ratio)
消光比とは、偏光板を透過する偏光光の最大透過量と最小透過量の比率を表す指標です。直線ワイヤーグリッド偏光板の場合、ワイヤーグリッド軸に対して垂直な偏光方向で最大透過が得られます。この垂直方向の偏光角度が90°回転してワイヤーグリッド軸と平行になると、最小透過点になります。どの偏光板も理想的ではなく、最大透過角度でも多少の損失があり、最小透過角度でもわずかな不要偏光が透過します。高い消光比を持つ偏光板ほど、目的とする偏光角を他の偏光成分に混ざることなくより正確に検出することができます。

上図:最大透過(T max)と最小透過(T min)は、消光比を算出するために用いられます。
Polarsens 技術を搭載した Phoenix/Triton(Sony IMX250MZR モノクロ、IMX250MYR カラー CMOS)
偏光カメラを活用することで、従来のRGBセンサーでは検出が難しかった多くの材料特性を容易に取得できるようになります。本センサーは、画素サイズ3.45µmの5 MPグローバルシャッターセンサーで、実績のあるソニー Pregius IMX250 モノクロCMOSセンサーにオンチップのナノワイヤー偏光層を追加した構造になっています。この組み合わせがソニーのPolarsens技術であり、優れたイメージング性能、精度の高い偏光データ、高い消光比を実現します。LUCIDのPhoenixおよびTritonカメラは、ソニーIMX250MZR/IMX250MYR偏光CMOSセンサーを搭載し、4方向の偏光フィルターを用いたオンカメラ処理により、各画素ごとに強度と偏光角を出力します。これらの革新的な製品を組み合わせることで、偏光は、検査や分類の精度を高め、隠れた材料特性を可視化するためのコンパクトでコスト効率の高いソリューションとなります。
ビデオプレゼンテーション:偏光で広がる産業用イメージングの新しい視点
PDFプレゼンテーションファイルのダウンロード Going-Polarized-Presentation.pdf(4 MB)





