既存のCAT5e/CAT6配線を活用し、低消費電力とPoEに対応できることから、2.5GBASE-T、特に5GBASE-Tは通信システムだけでなく、マシンビジョンカメラメーカーにとっても魅力的な代替手段となっています。 高速ビジョンシステム向け 5GBASE-T(5GigE) Lucid Tech Brief

高速ビジョンへの道を切り開く

Ethernetは1980年に登場し、1983年にIEEE 802.3として標準化されました。これにより、PC、サーバー、プリンター、スキャナーなどの周辺機器を単一のネットワークで接続できます。特にオフィス環境では、複数のスイッチで有線機器同士を接続し、ルーターやモデムに有線で接続してインターネットへアクセスします。現在、Ethernetは世界で最も普及しているネットワーク技術となり、数百万台のコンピューターと周辺機器がこの標準で相互接続されています。

他のネットワーク/インターフェース規格と同様に、Ethernetは進化を続けてきました。現在は廃止された10BASE5(10Mbit/s)から、1000BASE-T(1Gbit/s)、10GBASE-T(10Gbit/s)へと拡張され、ツイストペアではIEEE 802.3bqとして25GBASE-T(25Gbit/s)や40GBASE-T(40Gbit/s)も導入されています。2016年には、ツイストペア上で10GBASE-Tを低消費電力・低コストで置き換える目的で、2.5GBASE-T(2.5GigE)と5GBASE-T(5GigE)を含むIEEE 802.3bzが承認されました。

ethernet data rates chart

上図:10GBASE-Tのナイキスト周波数は400MHzで、送信データの大半はこの周波数以下に含まれます。速度を5Gbps(5GBASE-T)に下げるとナイキスト周波数は200MHzとなり、カテゴリ6ケーブルの規定帯域に収まります。2.5Gbps(2.5GBASE-T)まで下げるとナイキスト周波数は100MHzとなり、カテゴリ5eケーブルの規定帯域内に収まります。

補足

Ethernetケーブルのナイキスト周波数とは何ですか? ナイキスト周波数は、信号を忠実に再構成するために必要な最小サンプリング周波数を指します。Ethernetのデータ帯域が高いほど、ケーブルに求められるナイキスト周波数も高くなります。

バランスの最適化

2.5GBASE-TはCAT5eで最大100m・2.5Gbit/s、5GBASE-TはCAT6で最大100m・5Gbit/sに対応します。10GBASE-Tは10Gbit/sで、CAT6使用時は最大55m、CAT6Aでは100mまでカメラからPCへ接続できますが、Power over 10GBASE-Tは理論的には可能と示されているものの、現時点では正式サポートされていません。加えて、既設配線の大半はCAT5e/6であるため、2.5GBASE-Tおよび5GBASE-Tなら再配線コストを抑えられます。既存配線の活用、低消費電力、PoE対応の組み合わせにより、特に5GBASE-Tは速度・距離・コストのバランスに優れ、CMOSカメラなどのマシンビジョン機器にも好適です。

最大6.8Gbit/s・最長5mのCamera Link Extended Full(またはDeca)と比べても、高価なPC内蔵フレームグラバーや専用ケーブルを不要にできる5GBASE-Tの利点は明確です。

補足

ご存じでしたか? There is over
70
billion meters のCAT5e/CAT6ケーブルが1999年以降に敷設されています。(1)
Breakdown of different ethernet cables used

上図:設置済みのイーサネット配線をケーブル種別で見ると、現状はCAT5eおよびCAT6が市場の大半を占め、より高いデータレートに対応するCAT6aやCAT7は普及が始まった段階です。低コストなCAT6で100m・5Gbit/sを実現できる点が、カメラメーカーが5GBASE-Tを採用する理由の一つです。

高速動作する5GBASE-Tカメラ

これらの利点により、複数のメーカーが5GBASE-T規格に基づくラインスキャンおよびエリアスキャンカメラを投入しています。 代表例として、LUCIDのAtlas ATL314S 5GBASE-TカメラはSonyの大判31.4MP IMX342 CMOSセンサーを搭載。M12 Ethernetコネクタにより25.5W(PoE+、Type 2)給電と5Gbit/s伝送に対応し、6464×4852解像度で17fpsを達成。CAT6ケーブルで100mの距離でも動作します。

Atlas 5Gige Camera

Sony Pregiusセンサー搭載のAtlasカメラ(5GBASE-T PoE対応)。GigE VisionおよびGenICam準拠で、600MB/s(5Gbps)のデータ転送に対応。標準の銅線Ethernetケーブルで最大100mまで高解像度かつ高フレームレート伝送が可能です。

速度だけではない価値

マシンビジョンカメラメーカーが5GBASE-Tを採用する理由は速度だけではありません。Camera Link Extended Fullは最大6.8Gbit/sですがケーブル長は5mに制限されます。USB 3.1(10Gbit/s)およびUSB 3.2(20Gbit/s)も、カメラ〜PC間はそれぞれ5mと3mに制約されます。最速のCoaXPress(CXP)は1リンク当たり12.5Gbit/s、4リンクで50Gbit/sに達しますが、このデータレートでは最大35mまでで、3.125Gbit/sへ落とせば100mまで延長可能です。

Like Camera Link, a relatively expensive (+$2500) PCIe frame grabber is required to implement CXP-based systems. Some high-speed line-scan applications (such as web inspection) demand low latency, low-jitter, point-to-point interfaces, therefore CXP systems must be deployed.

一方で、要件がそれほど厳しくない多くのマシンビジョン用途では、5GBASE-Tがよりコスト効率に優れた解となります(下表「Table 1」を参照) ラインスキャン/エリアスキャンの幅広い機種で、ベンダーはGigE Vision(2006年に主にカメラメーカーのコンソーシアムが策定、現在はAIAが運用)をサポートしています。

comparing connection ability of CoaXPress, Camera Link and gigE Vision

上図:PCIeフレームグラバーを要するCXPやCamera Linkは非常に低遅延・低ジッタの接続が可能ですが、1枚当たりの接続台数(CXPは最大8、Camera Linkは最大2)に制約があり、コスト上昇や柔軟性低下を招きます。GigE Visionはシステム内で多くのデバイスを柔軟に接続でき、最大100mのケーブル長をサポートします。

補足

frame-grabbers

フレームグラバーとは Camera Link、CoaXPress、アナログマシンビジョンカメラ向けの専用インターフェースカードです。USBやEthernetカメラと異なり、画像処理の多くをフレームグラバー側で行います。

Table 1: インターフェース比較

インターフェース 最大データ転送速度 最大長 給電(PoE等) フレームグラバー要否 相対システムコスト 特長 必要ケーブル
Camera Link 850 MBytes/s 最大10m、Decaは7m 対応(PoCL) 必要 決定論的、遅延約4µs シールドツイストペア、MD-26コネクタ
CoaXPress 12.5 Gbit/s(1リンク) 3.125 Gbit/sで100m、12.5 Gbit/sで最大35m 対応(PoCXP) 必要 決定論的、遅延約4µs RG59/RG6 75Ω同軸、BNC/DIN 1.2/2.3(カメラ)、Micro-BNC(フレームグラバー)
USB 3.1 Gen 1 最大5 Gbit/s(実効約360 MB/s) 5m 対応(5V, 2.5W) 不要 平均遅延30µs USB Type-A/Type-C、USBケーブル
USB 3.2 最大20 Gbit/s 3m 対応(5V, 4.5W) 不要 平均遅延30µs USB Type-A/Type-C、USBケーブル
10GBase-T 10 Gbit/s 55m(CAT6)、100m(CAT6A) PoE+(IEEE 802.3at) 不要 平均遅延3µs CAT7/6A/6、光配線
5GBase-T 5 Gbit/s 100m(CAT6) PoE(802.3bt) 不要 平均遅延3µs CAT6/5e
2.5Gbase-T 2.5 Gbit/s 100m(CAT5e) PoE(802.3bt)4ペアPoE(51W) 不要 平均遅延3µs CAT5e
1GBase-T 1 Gbit/s 100m(CAT5以上) 13W(損失後)CAT3/CAT5 不要 遅延1〜12µs CAT5

GigE VisionとGenICamの採用

GigE Visionは、Ethernet上で高速映像と関連制御データを伝送する枠組みを提供し、開発を容易にします。標準の一部であるデバイスディスカバリー機構により、IPアドレス取得や、GenICamに基づくXML記述ファイルを介したカメラ制御・画像ストリームへのアクセスが可能になります。

GenICamは、フレームレートなどのカメラ機能を統一APIとGUIで扱えるよう、名称、インターフェース種別、単位、挙動を抽象化して定義します。GenApiモジュールはデバイス機能を記述するカメラ記述ファイルの作成方法と相互運用性を定め、SFNC(Standard Features Naming Convention)に基づく共通機能名と挙動の集合を提供します。

タイミングの重要性

GigE VisionとGenICamにより異機種連携は可能になりますが、産業環境では機器間の決定論的な動作を別途確保する必要があります。オフィス用途では厳密なタイミングは不要ですが、部品検査などの産業用途では、所定の時刻に送受信・処理・制御が行われないとデータ欠落や遅延によりシステムが不安定になります。このため、産業向けには決定性を確保する専用Ethernetプロトコルが重要です。

決定論的Ethernetプロトコル

PROFINET、EtherNet/IP、EtherCAT、SERCOS III、POWERLINKなどが代表的です。各プロトコルは技術的アプローチが大きく異なるため、すべてに対応するのは大手以外では困難です。いずれもリアルタイム性と決定性を提供しますが、EtherCATは採用実績と性能の両面で優位で、低コストなNICとEthernetケーブルで産業用コントローラに必要なリアルタイム・決定論的応答を実現します。(2)

Profinet Logo
EtherCAT logo
ethernet-ip logo
Powerlink Logo
sercosIII logo

フィールドバスとも総称されるこれらのプロトコル群を支援するため、OPC Foundationが策定したオープン標準のOPC Unified Architecture(OPC UA – IEC 62451)は、コンピュータベースの機械、装置間、装置とコンピュータシステム間の産業通信における情報交換を定義できます。

opc ua logo

OPC UAにより、開発者はOPCのデータモデルとサービスを活用し、バイト列のマッピングではなく合意された意味を持つデータ交換を実現できます。同時に、EtherCAT Technology Group(ETG, Nuremberg, Germany)とOPC Foundationの技術は補完関係にあり、EtherCATは機械・設備制御のリアルタイムEthernetフィールドバスとして、OPC UAはスケーラブルな通信プラットフォームとして機能します。

補足

団体会員
VDMA Logo
VDMAの会員企業数は3200社超

OPC-UA logo
OPCの会員企業数は700社超

マシンビジョンシステムの構築

上記の連携は有益ですが、工場フロアでEthernetベースのシステムを活用したいマシンビジョン開発者の要件を直接満たすものではありません。VDMAはOPC Foundationと協業し、マシンビジョン向けOPC UAコンパニオン仕様(「OPC UA Vision, VDMA Specification」2018年11月ドラフト)を策定しました。OPC UAが組込み機器のデータ、機能、サービス、データ輸送とモデリングを規定する一方で、OPC VisionはGenICamのSFNCに類似した形でカメラなど製品の業界固有定義を可能にします。さらにOPC VisionインターフェースはEtherCATなどのフィールドバスと統合でき、OTの生産制御とITシステムに接続されるリアルタイム決定論的システムの全体モデルを構築できます。

diagram of OPC UA model for machine vision

上図:マシンビジョン向けOPC UAコンパニオン仕様(OPC UA Vision)は、工場ネットワークの各コンポーネント間で非線形な通信とデータ交換を可能にする、オープンなEthernetベース標準です。

OPC UA、OPC Vision Initiative、IEEE 802.1のTSN標準の登場により、画像取得のような時間クリティカルで決定性が必要な処理と、重要度の低いIT通信を単一のEthernetネットワーク上で両立できます。OPC UA TSNはカメラ、PC、PLC、サーバーなどネットワーク上のノードに適用可能で、エッジ/クラウド型アプリケーションの構築にも有用です。

5GBASE-T:スイートスポット

5GBASE-Tカメラは標準Cat6ケーブルと組み合わせることで、多様なネットワークトポロジでホストPCから最大100m離して設置できます。高価なフレームグラバーが不要になり、5Gbit/sの画像データ転送を確保しつつシステムコストを削減可能です。OPC UAやOPC Vision Initiativeの取り組みが進むことで、5GBASE-Tカメラの産業用フィールドバス型Ethernetネットワークへの導入が容易になり、システム統合の手間も軽減されます。柔軟性、帯域、低コスト、信頼性を兼ね備えた5GBASE-Tは、高速ビジョンシステムにおけるバランスの取れたインターフェースといえます。

(1) “NBASE-T Technology Overview” by NBASE-T Alliance https://youtu.be/cLfuhrBaza8
(2) “Five Real-Time, Ethernet-Based Fieldbuses Compared,” a White Paper prepared by Kingstar (Waltham, MA, USA)